プロジェクトチーム

プロジェクトリーダー 原史郎
プロジェクトリーダー
原 史郎
国立研究開発法人 産業技術総合研究所

【ミニマルファブと国家プロジェクト】

現在、地球規模でグローバル化が行き渡り、世界中で大工場が無数に建設され、世界のそこここであらゆる商品が大量生産されています。その結果、世界的に過剰生産の状況が現出しました。全ての工場、全ての国々が、それぞれお客様を獲得して皆が潤うということは、もはや過去のものとなりました。その傾向は、大量生産化を強力に推し進めてきた半導体産業に顕著に表れています。少なくとも日本の半導体産業は壊滅的な打撃を受け、その産業規模を日々縮小し続けています。私は、半導体の基礎研究者として、30年ほど前から半導体デバイスの歩留まりの根源を追い求めてきましたが、1997年頃には、局所クリーン化生産技術の基礎的手法を確立していました。 2001年頃からは、それを応用発展させることで、半導体産業のムダと生産効率の向上を図る具体的システムの構築へ向けて広範な活動を展開してきました。多くの産業人とのディスカッションを通じて、グローバル化ビジネス、特に半導体産業においては、その工場の設備投資額が肥大化したことにその重大な問題点があることに気づかされました。半導体産業を復活させるためには、その肥大化で蓄積したムダを排除するために、中途半端な改革では無く、産業を不活性化した元凶である大量生産性ということそれ自体を思い切って切り捨てるそのような新しいタイプの超小型生産システムを創造しなければならないという結論に到達しました。同時に、巨大投資と不可分な関係にあるクリーンルームの設備投資の問題も解決しなければなりません。2007年には、この超小型生産システムの開発構想を、ミニマルファブ構想として提案しました。 同時に、その小さなミニマルファブを構築するために必須の、局所クリーン化搬送システムの開発に着手しました。このテクノロジーは、クリーンルームという莫大な設備投資が必要ありません。しかし、半導体の搬送システムは、微粒子を排除しなければならない上に、ウェハという脆弱なものを精密に搬送する必要があります。さらにミニマルシステムでは、クリーンルーム使わないので、微粒子環境として非常に厳しい環境下で実働しなければならないという、さらに過酷な条件が加わってきます。過去誰もなしえなかった、非常に高度な総合的な開発の仕事です。このコア技術の開発では、機械技術を得意とする有能な産総研研究者である前川仁が加わり、ナノテック(板橋区)という真にゼロから一緒にモノづくりを担える希有の企業の理解と協力を得て、人知を尽くした結果、なんとかその基幹テクノロジーを生み出すことができました。 このテクノロジー開発のプロトタイプが完成した頃の2010年には、私の私的な研究会であったファブシステム研究会を産総研コンソーシアム化し、このコンソを 23社4大学1公設研とミニマルファブの開発集団として組織致しました。 2010年には、産総研が2.7億円の資金投入を行い、開発を一挙に開始することができました。このおかげで、僅か1年後には、現在のミニマル装置群とミニマル搬送系のプロトタイプ群の開発に成功しました。この成功は、産業界及び政府に比較的すぐに認知されることとなりました。2012年には、国家プロジェクトとしての開発を開始致しました。この国家開発を推進するために、2012年6月から装置メーカを中心とする21社とミニマルファブ技術研究組合を立ち上げています。 本国家プロジェクトでは3年間(2012~2014年)にわたって、ミニマルファブに必須の装置群の開発、部材・ウェハ開発、それにファクトリーシステムの開発を行います。一つの産業システムを構築するのですから、開発項目は多岐にわたります。組合では20チームを組織し開発を進めています。 プロジェクトリーダの役割の中で、特に重要なことは、全ての開発案件を成功させることです。これは普通の仕事ではなかなかあり得ないことですが、システムを構築するには、その要素技術(ミニマルプロセス装置群)を基本的に全部稼働させる必要があります。特にリソグラフィを中心とするミニマルプロセス装置の基幹プロセス装置群とウェハ搬送系は最重要であり、不可欠です。これは難事業ですが、これら基幹部分のテーマを成功させる様にマネジメントを遂行することが私の努めです。至らない部分も多々あるところですが、地球上には有限の能力を持った人間しかおりません。全力疾走で皆と力を合わせて仕事を進めてゆきます。

【2015年、国家プロジェクトを終えて】

国家PJとしてミニマルファブの開発を、2012年度から3年間推進致しました。多くの皆様の英知を結集して多大な努力で開発を推し進めた結果、このプロジェクトは大いに成功したと申し上げることができます。 国家PJの狭義の目的は、前工程リソグラフィシステムの実用化、周辺前工程装置の実用化開発、イオン注入及びCVD等小型化難開発装置のプロトタイプ開発、ハーフインチウェハ製造技術の実用化を行う、ということにありました。また、副次的かつ総合的な目標として、カンチレバーとCMOSを試作するというPJ上明示的ではありませんが自主的な目標を立てていました。これらは、全て完遂されました。 全てのプロセス装置が商品化されるのは、数年先になりますので、未開発のミニマル装置については、既存のプロセス装置を用い、開発済みのミニマル装置と組み合わせてデバイスを作成する、ハイブリッドプロセスも開発実証しました。これによって、今すぐにでも、ミニマルファブの開発成果を世の中に使ってもらえるようになりました。 これらの開発の結果、ミニマルファブという、多品種少量生産に適した半導体生産システムという重大な価値が創造されました。 ミニマルファブコミュニティー内部の110社へのPJ評価についてのアンケートでは、106社から回答を得ました。 大成功11.3%、成功50%、概ね成功28.3%、わからない9.4%という結果を得ています。また、2014年12月のセミコンジャパンでは、MOSインバーターという基本ロジックデバイスを実際にその場で設計、プロセス開発、そして製造してテストするという歴史的に誰も成しなかったデモンストレーションを行い、5,084名という、会場で最も多くの登録来場者を得、大変な反響を頂きました。 国家PJに参画したのは、厳密にはミニマルファブ技術研究組合の25社だけですが、組合からの発注、それに自主的に取り組んだ企業という意味では、ファブシステム研究会100組織全体がPJを推進したということができます。ミニマルファブの開発のような産業システム全般に関わる開発においては、直接の実行組織だけで無く、それを取り巻く広い分野の企業組織の事実上の参画が不可欠でしょう。多くの物事がうまく行きましたが、その大きな理由は、時代がミニマル的な志向を後押しするように変わってきていることと、ミニマルコミュニティーのメンバーが前向きに開発に取り組んだことにありました。 研究会外部の多くの皆様とのコミュニケーションを通してわかっていることは、ミニマルファブという大変大きな価値が創造されたと理解されつつあること、そしてそれをどのようにビジネスにつなげるかは皆で考えて行かなければならないと、多くの皆様が意識しているということです。 ミニマルファブは、現時点でI/IとCVDを除く基幹プロセス装置のほとんどが実用化、商品レベルに達しています。今後は、私がPJ開始前に立案したミニマルファブのロードマップに沿って、次の開発を進めて参ります。まず、2015年からの第2フェーズでは、MEMSやディスクリートデバイス等簡易デバイスのミニマルファブの実用化を進めます。そして、2018年から2021年の第3フェーズでは、LSIファブの開発を行って行く予定です。今後は企業の自主的開発努力を強化しつつ、基幹部分の開発については、公的資金の導入努力を継続して参ります。 ミニマルファブの潜在ユーザには、その価値を十分に理解し、諸外国での導入が進み出す前に、ミニマルファブを用いた新しいビジネスの開拓を自ら具体的に推進することを期待します。
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Fab System Research Consortium, AIST